2. 研究内容


 当研究室での取り組みについて、食品機能研究と研究テーマについてご紹介します。


【食品機能研究】

 食品とは、栄養素を1種類以上含み、有毒・有害なものを含まない安全なものであり、摂取するのに好ましい嗜好特性を持ち、ヒトのホメオスタシスに寄与する生理的成分を含む天然物質及びその加工品を総称したものです(食べ物と健康,喜多野ら,2011)。私たちは、必要な栄養や機能を食事から摂取しており、ヒトにとって必要な成分を体内に取り入れることで健康を維持、増進しています。

 

 当研究室では、食品の3つの機能『栄養機能』、『嗜好機能』、『生体調節機能』に着目して研究を進めています。具体的には、食品に含まれる成分の特定やその含有量を測定し、前述のような機能を有するかどうかを培養細胞を用いた in virto 試験やヒトを対象とした官能評価の手法を用いて解析しています。培養細胞を用いた in virto 試験では、主に、抗がん作用、抗炎症作用、腸管吸収能を評価しています。

 

【培養細胞実験例(抗がん作用に関する研究より)】


 

図1. がん細胞の核染色写真

  (サンプル未処理)

 

図2. がん細胞の核染色写真

  (サンプル処理)

  ※サンプル処理によりア

   ポトーシスが誘導され

   核の断片化が認められ

   る(矢印部分)。



【研究テーマ】

  当研究室では、食品素材全般を研究対象食品として使用しています(一部、食品に分類されない素材(医薬品、医薬部外品素材、食経験が無い生物素材等)を取り扱うこともあります)。

 

 食品素材の中でも、地域に特徴的な食品(野菜、果実、ハーブ、海草等)を中心に研究に供しています。中でも、宮崎県に特徴的な「きんかん」、「日向夏」、「ピーマン」、「ホウレンソウ」、「ブルーベリーの葉」や、宮崎地域の伝統野菜である「糸巻きダイコン」や「佐土原ナス」等の機能性解析に力を入れて取り組んでいます。

 

 他にも、研究で連携している SciencesInstitut Teknologi Sepuluh Nopember (ITS)で取り扱っている植物由来成分等も使用し研究を進めています。


●宮崎伝統野菜の次世代への継承に関する研究

 宮崎県は、温暖な気候や豊かな大地を生かし多数の農畜水産物を生産しています。ピーマンのブランディングや、マンゴー、キンカン等のブランド作物輩出等により農業産出額も全国第5位(平成29年度農林水産統計より)と高く、過去5年間も堅調に推移しています。このように、一次産業が盛んな宮崎県の農業の未来を担う次世代ブランド作物として、地域特有の伝統野菜が注目されています。しかしながら、宮崎伝統野菜はあまり知られておらず、宮崎の宝である伝統野菜を次世代へと継承するためには認知度向上が急務となっております。認知度向上にはその地域資源の価値の可視化が重要ですが、宮崎伝統野菜に関する基礎的知見は得られておらず、一般的な作物との差別化が図れていないのが現状です。また、これら伝統野菜は大半が一次産品として出荷されているため、大消費地から離れている宮崎県では、伝統野菜を加工することによる付加価値向上、保存性の向上及び運搬コストの削減につながる取組が期待されています。

 

 

 当研究室では、宮崎伝統野菜に関する基礎的知見の取得、機能性解析、機能を生かした新製品の開発、宮崎伝統野菜の魅力発信、食育活動等を進めています。



●食品素材そのものを食べる『原食回帰』に関する研究

 近年、食生活の多様化により、様々な形態の食品を手にする機会が増えてきました。お箸で食する食事以外にも、ゼリー状の飲料や粉末、サプリメント等、調整された成分を摂取する食品も多くみられるようになりました。これらの食品は、健康を維持、増進するための一助となっています。実際に、特定保健用食品や機能性表示食品等は、食品の持つ機能を発揮する食品として注目を集めています。一方で、近年食品素材に含まれる機能性微粒子(Edible Plant Derived Exosome-like Nanoparticles;EPDENs, 通称:ベジクル)が、より高い生体調節機能を発揮することが報告されています(Katzら, 2014)。ベジクルは、食品素材にのみ含まれるナノサイズの天然のカプセルで、その中には栄養成分や機能性成分、遺伝子断片等、様々な物質を包含していることが明らかとなってきました。現在のところ食品としての知見は多くなくその可能性は未知数ですが、天然のサプリメントという新たな概念を提唱できるのではと研究を進めています。

 

 

 当研究室ではこのベジクルに着目し、ベジクルの基礎的知見の取得、機能性解析、当該機能を生かした新たな食様式「原食回帰」の提案等を進めています。本取り組みを通して、豊富な一次産業産品を有する宮崎県のフードビジネスを推進することを目指しています。

 



●食品の機能性解析とその機能を生かした商品開発

 豊富な宮崎県の特産品の中には、栄養成分や機能性成分を含有し、生体調節機能を有するものも多数存在します。当研究室では、現在「きんかん」と「ブルーベリー葉」に着目した研究を進めています。

 きんかんは、宮崎県が全国一の生産量を誇る特産品の一つです。ビタミンC・Eを豊富に含むことから、完熟きんかん「たまたま」は栄養機能食品としても販売されています。他にも、きんかんは、カロテノイド色素の一種であるβ-クリプトキサンチンを含んでいます。β-クリプトキサンチンは骨代謝促進作用があることが知られており、機能性表示食品の関与成分としても認められている注目の成分です。当研究室では、宮崎県産きんかん由来β-クリプトキサンチンに着目した研究を進めています。

 ブルーベリー葉は、宮崎における産学官連携研究により見出された様々な機能を有する食品素材です。これまでの研究において、抗酸化作用や血圧降下作用、脂質代謝調節作用等が報告されており、機能性成分としてポリフェノールの一種であるクロロゲン酸やプロアントシアニジンを含むことが明らかとなっています。当研究室では、宮崎県産ブルーベリー葉の有する生体調節機能に着目した研究を進めています。

 

 当研究室では、食品それぞれが有する特徴的な成分や機能に着目し、企業と連携してその機能を生かした商品開発に取り組んでいます。



●次世代を担う幼児期・学童期の子供達を対象とした食育活動

 食事は生きていくために必要な営みの一つです。その食の大切さを学ぶ教育として、食育が挙げられます。食育は、健康的な食生活を促進する幅広い世代で必要な学びの一つです。特に、子供達にとって、食の健全な成長を支えることは極めて重要です。日本では、食育の重要性が広く認識され、国の指針として「食育基本法」や「食育推進基本計画」が策定されています。これらの指針は、食育の重要性を社会全体で共有し、具体的な施策を講じることを目的としています。

 「食育基本法」は、2005年に制定され、国民が食に関する知識や技術を身につけ、健康的な食生活を実践するための基本方針を示しています。この法律は、食育を通じて「食」の大切さを再認識し、地域社会や家庭での実践を推進することを目的としています。具体的には、バランスの取れた食事、食品の選び方、食文化の理解など、食に関する幅広い知識を提供し、実生活に役立てることが求められています。また、「食育推進基本計画」は、食育の推進に向けた具体的な施策を示すもので、教育現場や地域社会、家庭などでの取り組みを支援しています。例えば、学校での食育活動や地域での食育イベント、家庭での食事の工夫などが推奨されています。これにより、子どもたちが早い段階から健康的な食習慣を身につけ、将来の生活に役立てることが期待されています。

 食育の重要性は、単に食事の内容にとどまらず、心身の健康を育むために欠かせない要素です。バランスの取れた食事は、身体の成長を支えるだけでなく、精神的な安定や学習能力の向上にも寄与します。また、食文化や食材への理解を深めることで、食事を通じて豊かな生活を送るための基盤が築かれます。

 

 当研究室では、食べる意欲の基礎を構築する幼児期・学童期の子供達を対象として、食の体験の機会を創出することで、生涯を通じた心身の健康を支える素地を作る食育活動に取り組んでいます。